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ハロルド作石の『BECK』が昔から好きだ。
だから、新作のバンド漫画『THE BAND』も気にはなっていた。買ってはいたものの、しばらく積んだまま。ところが深夜、何となく読み始めた瞬間に止まらなくなった。手元にあった巻を読み切り、その勢いで最新5巻まで買ってしまった。
こういう時に改めて思う。ハロルド作石は、読者を「次のページ」に運ぶ力が異様に強い。
動画:KODANSHA Books&Comics「『THE BAND』1st PV 完全版」
『BECK』完結から16年、再び始まった王道バンド漫画
『THE BAND』は2024年12月6日発売の「月刊少年マガジン」2025年1月号で連載開始。講談社自身が「『BECK』完結から16年、ハロルド作石が贈る新たなる王道バンド物語」と打ち出している。
2025年4月に第1巻が発売され、2026年8月には第5巻まで刊行。「全国書店員が選んだおすすめコミック2026」では第8位に入った。
物語は、新木友平が幼い頃、母親に連れられてバンドのライブを観る場面から始まる。アニメのタイアップ曲を演奏するバンドを見ながら、「自分でもこういう曲を作れるんじゃないか」と感じる。
そこから時間が進み、小学5年生になった友平は学校でいじめを受けている。そんな中で出会うのが、マタローと呼ばれる少年だ。実は二人は、幼い頃に同じライブ会場にいた。そこからギターを介して関係がつながり、二人で音楽にのめり込んでいく。
また主人公がいじめられている。でも、これはハロルド作石の「型」だ
『BECK』を読んだ人なら、序盤でまず気づく。
また主人公がいじめられている。
でも、これは単なる焼き直しには見えない。ハロルド作石は、敢えてひとつの強い物語フレームを何度も変奏しているように思える。
そのフレームを見て、自分が強く連想するのが藤子不二雄A先生の『まんが道』だ。
孤独だった少年が親友と出会い、二人でひとつの世界にのめり込み、その道を進んでいく。『BECK』にも、『RiN』にも、そして『THE BAND』にも、その骨格が見える。
しかも親友のあだ名は「マタロー」。見た目まで含めて『魔太郎がくる!!』を連想させる。
ハロルド作石本人が『まんが道』を下敷きにしていると明言した資料は、現時点では確認できていない。だからこれは自分の読みだ。ただ、ここまで繰り返されると、藤子不二雄A作品への強い敬意を感じずにはいられない。
そして自分自身、『まんが道』は何度読み返しても面白いと思う。だから、この骨格そのものが好きなのだと思う。
『BECK』のコユキとは違う
『BECK』のコユキには、早い段階から「歌」という天賦の才があった。普段は目立たない少年なのに、歌った瞬間だけ空気が変わる。その才能が物語を大きく押し出した。
『THE BAND』の友平は違う。
歌がうまいわけでもない。最初から誰もが振り向く天才でもない。それでも音楽に惹かれ、ギターを持ち、仲間と演奏し、自分の居場所を作っていく。
ここに今作の大きなメッセージがあるように感じる。
歌の天才じゃなくてもいい。特別な人間じゃなくてもいい。今が苦しいなら、音楽をやってみればいい。バンドをやってみればいい。
作品を読んでいると、その方向へ自然に引っ張られる。
音楽が人生を全部解決するわけではない。それでも、人と出会わせ、昨日までとは違う場所へ連れていき、自分でも知らなかった自分を見つける力はある。『THE BAND』は、その力を描こうとしているように見える。
ハロルド作石は「漫画を読ませる力」が抜群に強い
『ゴリラーマン』の印象が強いせいか、ハロルド作石を少しイロモノ的に見る人もいるかもしれない。
でも実績は圧倒的だ。『ゴリラーマン』で講談社漫画賞を受賞し、『ストッパー毒島』を経て、『BECK』でも再び講談社漫画賞を受賞。その後も『7人のシェイクスピア』『RiN』『ゴリラーマン40』と、異なる題材で長く作品を出し続けている。
自分は、この人の漫画家としての腕は業界でも屈指だと思っている。
特に強いのが構成とネームだ。大げさな事件を連発するのではなく、小さな出会い、失敗、成功、次の目標を絶妙な位置でつなぎ、読者に「もう少しだけ読もう」と思わせる。
今回も、買ってから放置していたはずの漫画を深夜に開き、そのまま最新巻まで買ってしまった。読者としては、それが一番わかりやすい証拠だ。
一度「ロックは全部出し切った」と感じた作者が、16年後に戻ってきた
過去のインタビューで、ハロルド作石は『BECK』連載後について「ロックに対するものはすべて出し切った」と感じていたと語っている。
その作者が16年後に、再び真正面からバンド漫画を描き始めた。
だから『THE BAND』は単純な『BECK 2』ではない。
一度描き切ったと思った題材を、年齢も時代も変わった漫画家がもう一度描く。その時に何を残し、何を変えるのか。そこがこの作品の面白さでもある。
『ぼっち・ざ・ろっく!』の大ヒット後に、ハロルド作石が戻ってきた
連載開始は2024年末。『ぼっち・ざ・ろっく!』が大ヒットした後だ。
『ぼっち・ざ・ろっく!』は序盤こそ、きらら作品らしい日常コメディの色が強い。しかし進むにつれて、ライブ、バンドとしての成長、人間関係、挫折と成功が物語の中心へ入ってくる。
これは完全に自分の見立てだが、その過程を読んでいて『BECK』の影響をかなり感じていた。
『BECK』が先に道を作り、その後の世代のバンド漫画が巨大な人気を得て、今度はそのハロルド作石本人が再びバンド漫画に戻ってきた。
この流れだけでも面白い。
恋愛を前に出してこないのも『BECK』との違い
『BECK』では、コユキと真帆の関係がかなり早い段階から物語の大きな軸になっていた。音楽漫画であると同時に、青春恋愛漫画でもあった。
『THE BAND』は、5巻まで読んだ段階では意図的なくらい恋愛を前面に出していない。
今の中心は、友情、バンド、曲作り、ライブ、そして自分の音楽を探していくことだ。
同じ作者のバンド漫画でも、ここはかなり違う。
個人的には、このまま急いで恋愛に寄せなくても面白いと思っている。
……とはいえ、キャラクターとしては部長が好きだけど(笑)。
『BECK』好きなら、まず1巻だけでも読んでみてほしい
『THE BAND』には、『BECK』と似た部分が確かにある。
いじめられている少年。親友との出会い。ギター。バンド。そして音楽によって人生が少しずつ動き始める。
でも、主人公に与えられた才能も、恋愛の扱いも、作品が向かおうとしている場所も違う。
そして何より、ハロルド作石の「読ませる力」
深夜に読み始めて、気づけば最新5巻まで買っていた。それが自分にとって、この作品への一番正直な評価だ。
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主な参照先:
月刊少年マガジン『THE BAND』公式作品ページ・新連載告知
講談社『THE BAND』第1巻・第5巻書誌情報
日本出版販売「全国書店員が選んだおすすめコミック2026」
音楽ナタリー「Coming Next Artists」ハロルド作石インタビュー
KODANSHA Books&Comics『THE BAND』1st PV 完全版
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