『エストポリス伝記 I&II』復活――30年経っても音楽が愛される理由と、作曲家・塩生康範さんの現在
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2026年9月21日、タイトーから『エストポリス伝記 I&II』が2027年に発売されることが発表されました。対応機種はNintendo Switch 2、Nintendo Switch、PlayStation 5、Steam。1993年の『エストポリス伝記』と1995年の『エストポリス伝記II』が、30年以上の時を経て現行機に帰ってきます。
自分はこのシリーズをリアルタイムで遊び込んだファンではありません。昔、ニコニコ動画で「音楽がものすごく良いゲーム」として知り、曲を聴いたことがある程度です。それでも今回の復活ニュースを見て、まず思い出したのはやはり音楽でした。
調べてみると、そこには単なる「懐かしの名作復活」では終わらない話がありました。『エストポリス伝記』の音楽を生んだ作曲家・塩生康範さんは、ゲーム業界を離れた後も音楽との縁が切れず、蕎麦店を営みながら作曲活動へ復帰。30年前のファンサイトが現在のインディーゲーム制作につながり、そして『エストポリス伝記II』の曲は羽生結弦さんのアイスショーでも使われています。
今回は、新作情報そのものより少し先まで掘ってみます。
『エストポリス伝記 I&II』は2027年発売
タイトー公式によれば、『エストポリス伝記 I&II』は2027年発売予定。シリーズ企画者の宮田正英さんも協力し、現行プラットフォーム向けの調整が進められています。
現時点で価格は未定。具体的にどこまで追加機能や遊びやすさの改善が入るのかも、今後発表される予定です。
公式側自身が、このシリーズの魅力として「印象に残るサウンドトラック」と「涙を誘う物語」を挙げています。特にIIは、モンスター育成、ローグライク型の「いにしえの洞窟」、ランダムエンカウントを避けたダンジョン構成など、当時としてかなり意欲的な作りだったことも改めて紹介されています。
物語の構造を見て『ファイブスター物語』をちょっと思い出した
『エストポリス伝記』は、最初に大きな戦いとその結末を提示し、その後『II』で時代をさかのぼり、そこへ至る物語を描くという少し変わった構成です。
もちろん同じ作品構造という話ではありませんが、「未来や結末の一端を先に見せ、そこへ至る歴史を後から追わせる」という発想を見て、自分は『ファイブスター物語』を少し思い出しました。
そして、その『ファイブスター物語』も驚くことに今なお現役です。2026年で連載40周年。コミックス第19巻が5月に発売され、40周年記念本『F.S.S. EPISODES of 40th MEMORIAL』も展開されています。
何十年も前に始まった作品が、今も新しい読者と古参ファンを同時に抱えて続いている。『エストポリス』の復活も、そういう長寿コンテンツの面白さを改めて感じさせます。
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『エストポリス伝記』の音楽を作った塩生康範さん
『エストポリス伝記』『エストポリス伝記II』の音楽を担当したのは、作曲家の塩生康範さんです。
塩生さんは日本テレネットのウルフ・チーム、ネバーランドカンパニーなどでゲーム音楽を手掛け、『エストポリス伝記』シリーズのほか、『カオスシード~風水回廊記~』『エナジーブレイカー』『フロンティア ストーリーズ』などにも参加しています。
2016年のインタビューでは、『エストポリス伝記II』制作時について、細かな指示で曲を作ったというより、宮田さんから「町っぽく」「城っぽく」といったかなり大まかなイメージを受け取り、そこから音楽を組み立てていったという興味深い話をしています。
ファン人気の高い「地上を救う者」についても、エンディングの状況を聞いた上で書いた曲だったと振り返っています。ゲームの場面と曲が強く結びついて記憶されている理由が、少し見える話です。
30年後、羽生結弦さんが『エストポリス伝記II』を滑る
この作品の音楽がどれほど長く生き残っているかを象徴する出来事が、羽生結弦さんのアイスストーリー『→RE_PRAY←』です。
使用されたのは『エストポリス伝記II』の「予言者」「地上を救う者」「バトル#1」「バトル#2」。MUSICエンジンによる編曲・演奏でメドレー化され、羽生さん自身が振付・演技を行っています。
動画:羽生結弦 公式YouTube「地上を救う者~エストポリス伝記IIメドレー~」
1995年のスーパーファミコン用RPGの楽曲が、約30年後にトップスケーターの公演で使われる。これはかなりすごい話です。
ゲームそのものを知らない人にも、音楽だけが別の場所へ渡っていく。自分が昔ニコニコ動画で「音楽が良いゲーム」としてこの作品を知ったのも、ある意味では同じような伝わり方だったのかもしれません。
ゲーム業界を離れ、蕎麦を打ち、そして作曲へ戻った
塩生さんはその後、いったんゲーム音楽の第一線を離れ、家業の蕎麦店に入ります。現在も栃木県日光市の「そば処 しろやま」を営みながら、作曲活動を続けています。
これがまた面白い話で、2016年のインタビューでは、蕎麦を打つ工程が曲作りの感覚と似ていると感じたことが、再び音楽を作りたいと思うきっかけの一つになったと語っています。
そしてYouTubeに自作曲を公開し始めた時期とほぼ同時に、思いがけない依頼が届きます。
依頼したのは、香港ノワール系ノベルゲーム『紅蜘蛛/Red Spider』を制作するstudio waspのKellyさんでした。
29年前のファンサイトが、作曲家をもう一度ゲームへ呼び戻す
この話は、studio waspのKellyさん自身が2026年に詳しく書いています。
Kellyさんは『エストポリス伝記II』の熱狂的なファンで、1996年に作品を広めるためのファンサイトを開設。その後、シリーズ関係者との交流が生まれ、2014年に塩生さんが作曲活動を再開すると知った際、個人制作ゲーム『紅蜘蛛』への楽曲提供を依頼します。
無名の個人サークルからの依頼にもかかわらず、塩生さんは快諾。これが塩生さんのゲーム音楽作曲家としての本格的な復帰につながりました。
30年前にゲームを好きになった一人のファンがサイトを作る。そのサイトから人との縁が生まれる。その縁が十数年後に新しいゲームを作り、かつて憧れた作曲家がそこへ曲を書く。
こういう話は、作品が「売れた本数」だけでは測れないものを残していることをよく表していると思います。
→ studio wasp Kellyさん「29年前に作ったファンサイトが起こした奇跡」
『エストポリス』とは違う「現在の塩生康範」を聴いてみる
『紅蜘蛛』の音楽は、『エストポリス伝記』のコピーではありません。香港ノワールというまったく違う世界のために書かれた曲です。
それでも、メロディを前に出す作りや、少し哀愁のある旋律を聴いていると、「この人の曲なんだな」と感じる部分があります。
動画:studio wasp『紅蜘蛛/Red Spider』メインテーマ「Vengeance」/作曲:塩生康範
『紅蜘蛛』シリーズのオリジナルサウンドトラックには、塩生さんによる「Red Spider Lily」「Red Spider」「Vengeance」「Retribution」などが収録されています。Apple Music、YouTube Music、Spotify、Amazon Musicなどでも配信されています。
動画:studio wasp『紅蜘蛛/Red Spider』BGM紹介
→ 『紅蜘蛛/Red Spider』オリジナルサウンドトラック公式ページ
今も作曲依頼を受けている
塩生さんは現在も、TABプロダクションのサウンドクリエートチーム所属として作曲活動を継続しています。本人のクリエイタープロフィールには『エストポリス伝記』シリーズから『紅蜘蛛』までの担当作品が掲載され、現在も楽曲制作の相談を受け付けています。
Xも本人名義の「@TauBell」で更新されています。
→ 塩生康範さん本人X(@TauBell)
→ 塩生康範さん クリエイタープロフィール
また、現在は蕎麦店を中心に生活されており、本人Xでは体調についての報告や店舗の臨時休業について告知されることもあります。ファンとして店舗を訪ねたい場合も、突然押しかけるのではなく、まず店舗や本人のSNSで最新の営業状況を確認してからにしたいところです。
「マイナーな名作」が30年後に戻ってくる意味
『エストポリス伝記』は、誰でも知っている国民的RPGというタイプの作品ではありません。
それでも、遊んだ人の中には非常に強い思い入れを持つファンがいる。音楽だけを追い続けた人がいる。ファンサイトを29年間残した人がいる。演奏会を開いた人がいる。そして世界的なスケーターがその曲を使った。
そう考えると、今回の『エストポリス伝記 I&II』復活は、「昔のゲームをもう一度売る」というだけではない気がします。
これまで作品を知っていた人がもう一度触れられる。そして、自分のように「曲だけは知っている」という人や、名前すら知らなかった世代が、初めて普通に買える場所へ戻ってくる。
2027年版がどこまで手を加えるのかは、まだ分かりません。だからこそ続報が楽しみです。
そして、この復活をきっかけに塩生康範さんの曲を初めて聴く人が増えるなら、それもまた30年以上続いた『エストポリス伝記』という作品の“続き”なのかもしれません。
主な参照先:
タイトー『エストポリス伝記 I&II』公式サイト
インサイド「『エストポリス伝記II』作曲者・塩生康範が語る、音楽制作秘話と活動再開に至った想い」
塩生康範さん本人X(@TauBell)/クリエイタープロフィール
studio wasp「29年前に作ったファンサイトが起こした奇跡」/『紅蜘蛛/Red Spider』公式サイト
日光手打ちそばの会「そば処 しろやま」
『ファイブスター物語』公式サイト
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